第10回眼抗加齢医学研究会、第5回ブルーライト研究会に参加して 松坂

網膜色素変性症に対するアンチエイジングからのアプローチ

NAD(ニコチナマイドアデニンヌクレオチド)は様々な代謝の補酵素として使われるが、長寿遺伝子サーチュインの活性化にも必須である。NADの前駆物質であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の合成に必要なNAMPTを杆体細胞に特異的に欠乏させたマウスは網膜色素変性症様の変化を起こし、網膜外顆粒層の著名な菲薄化を認め、ERGがフラットであった。

このマウスにNMN150mg/kgを毎日投与したところ、網膜外顆粒層の菲薄化が抑制されERGも大幅に改善された。

この結果から、網膜色素変性症に対するNMNの有用性に関する臨床治験が始まる予定、とのことだった。

 

腸内細菌の可能性について

ドライアイと腸内細菌の関係についての話があり、ぶどう膜炎にも腸内細菌が関与しているとの報告があった。

眼内での炎症の原因となるT細胞の教育は腸内細菌叢により行われており、腸内細菌叢へのアプローチでぶどう膜炎が治療できるのでは?ということであった。実際に、ぶどう膜炎患者数例にある種の抗生物質を投与して意図的に腸内細菌叢を壊すとぶどう膜炎が治癒したということで、現在更に詳しい研究が行われているとのことだった。

眼科領域ではないが、腸内細菌によって飢餓を無くせる可能性があるという話も興味深かった。アフリカ マラウイでは50%のBabyがクワシオルコルで亡くなるそうだが、同じ環境にあって生き残る50%と亡くなる50%の違いは何なのかという疑問から研究が始まり、その差は腸内細菌叢である可能性が高いという研究結果が出たそうだ。

マウスと豚での実験では、サリチル化された母乳由来のオリゴ糖の摂取により効率的な栄養素利用ができる腸内細菌叢となり、たんぱく質が不足していてもクワシオルコルにならないという結果が出たそうだ。

腸内細菌叢を整えることにより色々な疾患の治療、予防が可能になる可能性はまだまだ広がるようだ。

 

 屋外環境光と近視の関係

近年近視の有病率が増加しており、東アジアにおいては2010年成人の約80%が近視であるというデータが報告されていた。子供達を取り巻く環境の変化により近視の有病率が増加していると考えられ、強度近視の人口を減らすには小児の早い時期からの介入が必要であるとのことであった。

近業作業の増加、睡眠時間の減少、運動と屋外活動時間の減少が近視の増加と関係していると考えられるそうだが、現代社会において近業作業時間を減らすことは困難と考えられるため、近視を抑制するためには睡眠時間と屋外活動時間の増加を目指す必要があるとのことだった。

睡眠時間9時間以上の群は5時間未満の群より優位に近視になりにくいとのことだったが、9時間以上の睡眠時間をとることは現実的にはかなり難しいと思った。が、近視抑制の為に意識的に睡眠時間を長くとるようお奨めすることは有用であると思われる。

両親共に近視であっても屋外活動時間が2時間以上/日の群では近視発症率が20%以下であり、近視発症リスクを下げることが出来るとのことだった。身体活動と近視抑制間には相関関係がないことから、屋外活動による近視抑制には光量が関係していると考えられ、ヒヨコによる実験により高照度であるほど近視の進行が抑制されるとの結果が出たそうだ。近視抑制のために、小学校低学年までに2時間以上/日の屋外活動を積極的に行わせて頂くようお奨めしていきたいと思う。