第18回 抗加齢医学会 2018/8/1 松坂

<ω3脂肪酸>

卵アレルギーのマウスに亜麻仁油を投与すると下痢をしない。これは、亜麻仁油に多く含まれるα―リノレン酸を摂取すると、体の中でEPAに変換され、更にエポキシETEという代謝物に変換され、このEpETEに食物アレルギーを抑制する活性があるからだとのことだ。また、EpETEは接触皮膚炎も抑制できることがわかった。ステロイドはT細胞を抑制することで炎症を抑制するが、EpETEは好中球の炎症部位への浸潤を抑制することで炎症を抑えることがわかり、それぞれ作用点が異なる。このことから、副作用を心配せず皮膚炎を治療できるものとして今後期待される、とのことだった。

 

<糖尿病網膜症に対する新しい治療>

眼局所には組織レニン・アンギオテンシン系(組織RAS)が存在し、その下流においてVEGFや炎症性サイトカインなどの発現亢進による炎症機序を介して網脈絡膜病態が形成されるが、組織RASの上流に位置するプロレニン受容体が糖尿病網膜症患者の増殖膜や硝子体中に多く存在することがわかり、プロレニン受容体をターゲットにした治療薬の研究がされているとのことだった。VEGFの発現は晩期に起こるので、その上流のプロレニン受容体をターゲットにすることで更に早い段階での治療が可能となる可能性がある。

 

<網膜症患者の眼科受診の必要性>

なぜDMで失明するのか?というタイトルのシンポジウムでの慶應の内分泌内科Dr.の講演で、DM患者で眼科を受診したことがない、もしくは一年以内に受診していない患者はDM患者の約61%とのことで、かなり受診率は低いとの報告があった。眼科受診の目的は網膜症の早期発見は勿論だが、神経障害や腎症の発症との相関性があるかも内科Dr.は診ているとのことだった。足底に潰瘍ができた場合や腎機能低下を認めた場合に、DMの合併症だという先入観を持ちがちだが、糖尿病網膜症がなければ別の疾患を考える必要がある。

DM患者の眼科受診率を上げるよう、更なる啓蒙活動が必要である。

 

<ToxicAGEs(TAGE)>

高血糖状態が続くと促進的に生産される蛋白質代謝産物(AGE)の中のToxicAGEsと呼ばれるものがDMや糖尿血管合併症の発現、進行に強く関わっていることがわかっているが、TAGEの生成、蓄積が心血管疾患、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、肝がん、大腸がん、不妊などにも関わっていることがわかった。健診で正常であっても血中TAGEレベルが高ければ生活習得病の発症を予測できるとのことだった。。

 

<ドライアイ>

エイジングにより涙が減ることがわかっており、アンチエイジングアプローチによってドライアイを治療するという新しい方法を研究していると慶應の坪田先生が報告されていた。実際にメタボの人は涙液量が少なく、睡眠不足、運動不足、ストレスによって涙液が減ることがわかったとのことで、生活習慣の改善がドライアイ治療にも有効ではないかと考えられるとのことだ。腹式呼吸により涙液量が増えるそうで、4秒吸って6秒吐くという腹式呼吸を18回(3分間)行うと10分後に涙液量が増えるという実験結果があるとのことだった。

ドライアイの診断基準が改定され自覚症状が重要視されているが、他覚的所見が無いのに自覚症状が強い患者が増えているとのことだった。元々はドライアイによる症状だったが、炎症が慢性化して所見がなくなっても慢性疼痛として痛みが残ってしまうそうで、神経痛の内服薬のリリカを処方して痛みが無くなくなるケースを多く経験しておられるとのことだった。

 

<エピゲノム解析>

ゲノム解析でAMDのリスクが高いとしてもその全ての人が発症するとは限らず、発症するかどうかはエピゲノムにより決まるとのことで、エピゲノム解析が注目されているとのことだった。発症するかしないかには環境が大きく影響するので、AMD患者へのサプリメントの摂取や禁煙などの生活習慣の改善に対する指導の重要性を改めて感じた。

第71回臨床眼科学会に参加して 松坂

今回の臨床眼科学会のテーマは「Ophthalmology、the Next Generation(次世代の眼科学)」ということで、最新の検査機器や手術機械を用いてわかってきたことや可能になったことを知ることが出来ました。特に、眼循環が目視か出来るようになったことで、疾患の進行、悪化と眼循環との係わりが示唆されるようになり、治療の視点が変わってきていることを感じました。

 

眼血流と眼疾患というシンポジウムで、LSFGやOCTAによりわかってきた網膜疾患や視神経疾患の病態についての講演がありました。緑内障患者は乳頭周辺の血管密度が病期に比例して少なくなっていることはわかっていたそうですが、黄斑周辺の血流はあまり関係ないと言われていたそうです。しかし、黄斑周辺の血管密度も正常眼より優位に少なく、PPGの段階で末期緑内障とほぼ同程度まで減ることがわかったそうです。黄斑の無血管領域の変化をみることは緑内障の進行の予測に役立つとのことでした。

面白いと思ったのは、頭蓋内血流と眼疾患との関係についての講演で、緑内障の人は脳血流が低下している人が多いそうでNTGで眼圧は十分低いのに視野変化の進行が早い人は一日の乳頭血流の変動が大きく、=眼窩内血流の変動が進行の原因なのではではないか?と話されていたことです。NTGではNFLが脆弱であり、その原因は酸化ストレスと脳脊髄液の圧のバランスが崩れることによって起こる循環不良によるものだと考えられる為、酸化ストレスの除去と眼血流の改善によりNTGの進行を抑制できる可能性があるとのことでした。NTGについては高血圧より低血圧の方がリスクファクターになるそうです。また、緑内障患者は血管内皮細胞の機能不全があり、正常化することで進行を抑えられるのではないかという視点でも研究がなされているとのことでした。

RGC Rescue in GlaucomaというタイトルのUCLAのDr.よる特別講演で、緑内障による視野変化は不可逆的なものだとされていたが、RGCの機能が低下してからアポトーシスするまでにはタイムラグがあり、その間に十分眼圧を下げればRGCが回復して視野変化も回復すると話されていました。座長をされていた岐阜大学の山本先生も視野回復した症例を経験されているそうで、早い段階で積極的に外科的治療による眼圧下降の必要性を感じていると仰っていました。

 

白内障手術については、みなとみらいの荒井先生がORA systemを使って術中にIOLの度数調整をしている映像を流されていて、初めて実際の映像を見たのでとても興味深かったです。完璧を目指して手術を行っていると仰っていて、Lentisのnon-Toricは全パワーを揃えているのでORAでターゲットズレしそうなら術中に度数を変更し、乱視が残りそうならAKを追加するという調整をされているそうです。IOLについてはやはりEDOFが流行のようで、シュミレーター上ではSymfonyもグレア、ハローがあり、MiniWellというイタリアのIOLがハロー、グレアがほぼ単焦点と同程度で患者満足度も高いと話されていました。

非球面レンズは角膜不正乱視、角膜混濁、瞳孔偏位など光学中心に光が集約して透過しない眼では、逆に収差を増やすので、球面レンズを挿入した方が良いと報告されており、今後IOLを選択する際の参考にしようと思いました。

 

角膜治療の最近の進歩というシンポジウムで、ドライアイの86%がMGDであるとの報告があり、最新のMGD治療の報告がありました。マイボーム腺開口部に刺入して開口部を広げる針の紹介やIPLをマイボーム腺付近に照射し内側から温めることでMGDを改善されるという治療紹介など様々な治療の紹介がありました。その中で、ジクアスは涙液量と粘液量を増やすだけでなくマイボーム腺機能の改善効果もあり、MGDを伴うドライアイに有効との報告がありました。また、どの治療を行ったとしても温罨法は継続することが大切で2回/日、5分間の温めを継続すると優位にMGDが改善されるとの報告があったので、ドライアイの患者様に点眼の説明をする際に更に意識してお話しようと思いました。

 

フェムトを用いた角膜治療の講演で、SMILEの臨床成績が想像以上に良いこと、FLAKという移植片をフェムトで作成するという角膜移植への応用がパラダイムシフトになりつつあるということを改めて知りました。

また、円錐角膜に対するクロスリンキングの有効率が90~95%であり、進行を停止させることが可能な疾患になっていることを知りました。ただ屈折矯正は出来ないので、屈折異常が進行する前に積極的に治療することが大切とのことでした。

現在角膜移植に代わる先進的な治療法として、角膜内皮注入療法という角膜内皮再生医療の研究、開発がされているそうです。高品質な培養ヒト角膜内皮細胞をROCK阻害剤と共に前房内に注入するというもので、既に人への臨床研究もされており、近い将来実用化されるかもとのことでした。

 

第10回眼抗加齢医学研究会、第5回ブルーライト研究会に参加して 松坂

網膜色素変性症に対するアンチエイジングからのアプローチ

NAD(ニコチナマイドアデニンヌクレオチド)は様々な代謝の補酵素として使われるが、長寿遺伝子サーチュインの活性化にも必須である。NADの前駆物質であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の合成に必要なNAMPTを杆体細胞に特異的に欠乏させたマウスは網膜色素変性症様の変化を起こし、網膜外顆粒層の著名な菲薄化を認め、ERGがフラットであった。

このマウスにNMN150mg/kgを毎日投与したところ、網膜外顆粒層の菲薄化が抑制されERGも大幅に改善された。

この結果から、網膜色素変性症に対するNMNの有用性に関する臨床治験が始まる予定、とのことだった。

 

腸内細菌の可能性について

ドライアイと腸内細菌の関係についての話があり、ぶどう膜炎にも腸内細菌が関与しているとの報告があった。

眼内での炎症の原因となるT細胞の教育は腸内細菌叢により行われており、腸内細菌叢へのアプローチでぶどう膜炎が治療できるのでは?ということであった。実際に、ぶどう膜炎患者数例にある種の抗生物質を投与して意図的に腸内細菌叢を壊すとぶどう膜炎が治癒したということで、現在更に詳しい研究が行われているとのことだった。

眼科領域ではないが、腸内細菌によって飢餓を無くせる可能性があるという話も興味深かった。アフリカ マラウイでは50%のBabyがクワシオルコルで亡くなるそうだが、同じ環境にあって生き残る50%と亡くなる50%の違いは何なのかという疑問から研究が始まり、その差は腸内細菌叢である可能性が高いという研究結果が出たそうだ。

マウスと豚での実験では、サリチル化された母乳由来のオリゴ糖の摂取により効率的な栄養素利用ができる腸内細菌叢となり、たんぱく質が不足していてもクワシオルコルにならないという結果が出たそうだ。

腸内細菌叢を整えることにより色々な疾患の治療、予防が可能になる可能性はまだまだ広がるようだ。

 

 屋外環境光と近視の関係

近年近視の有病率が増加しており、東アジアにおいては2010年成人の約80%が近視であるというデータが報告されていた。子供達を取り巻く環境の変化により近視の有病率が増加していると考えられ、強度近視の人口を減らすには小児の早い時期からの介入が必要であるとのことであった。

近業作業の増加、睡眠時間の減少、運動と屋外活動時間の減少が近視の増加と関係していると考えられるそうだが、現代社会において近業作業時間を減らすことは困難と考えられるため、近視を抑制するためには睡眠時間と屋外活動時間の増加を目指す必要があるとのことだった。

睡眠時間9時間以上の群は5時間未満の群より優位に近視になりにくいとのことだったが、9時間以上の睡眠時間をとることは現実的にはかなり難しいと思った。が、近視抑制の為に意識的に睡眠時間を長くとるようお奨めすることは有用であると思われる。

両親共に近視であっても屋外活動時間が2時間以上/日の群では近視発症率が20%以下であり、近視発症リスクを下げることが出来るとのことだった。身体活動と近視抑制間には相関関係がないことから、屋外活動による近視抑制には光量が関係していると考えられ、ヒヨコによる実験により高照度であるほど近視の進行が抑制されるとの結果が出たそうだ。近視抑制のために、小学校低学年までに2時間以上/日の屋外活動を積極的に行わせて頂くようお奨めしていきたいと思う。

第73回日本斜視弱視学会・第42回日本小児眼科学会 大嶋

間歇性外斜視患者の読みをアイトラッカーで見たら、行末から次の行頭への視線を移動させるとき、

XPT患者は同じ行の行頭へ視線が戻り、行頭と文末を視線が往来する行反復を繰り返してから次の行頭へ視線が行く。健常者の行反復が0.2±0.4回に対し、4.9±2.3回である。

改行時のsaccade中に横ずれでなく上下の僅かな眼位ずれが起こることが原因するとみられる。

この行反復は輻湊不全型XPT患者で顕著であり、リーディングパフォーマンスの低下につながると考えられる。

 

チャージ症候群の弱視治療の可否。患眼は遠視性乱視で視力不良のことが多い。

乳頭コロボーマが大きく弱視治療もあきらめがちだが、OCTを取ると中心窩がきっちり形成されていることもあり、中心窩が確認された3歳児に眼鏡+健眼遮蔽の弱視治療を行ったところ、0.1だった視力が0.8、立体視800″まででた。

中心窩をOCTで確認したうえで、積極的に治療すべきである。

 

スポットビジョンスクリーナー

やはり乱視の偽陽性はあるものの健診などでは有用であるとの報告多かった。

+1.0~+2.0程度の遠乱でもアトロピン点眼後の測定では+5~+7の遠視が出ることもあり、

一概に問題なしとは言えない。

視力の結果と両方で判断。

SVSの測定範囲は他のレフより狭くて±7Dなので注意が必要とのこと。

9方向向き眼位にて偏位量を見る試みをしている発表もあった。

 

第17回抗加齢医学会に参加して 松坂

今回の抗加齢医学会のテーマは「Anti-aging Breakthroughs」、抗加齢の基礎研究のエビデンスと人疫学研究の成果を実臨床に結び付け、老化を制御できないかという願いを込めたテーマとのことでした。実際には実臨床に結びついた報告はまだこれからという印象でしたが、老化のプロセスについてはかなり解明されてきているという印象を受けました。

 

老化のプロセスにNADが大きく関与しており、サーチュインがNAD依存性であることや、NADが加齢とともに体内で減少することから、NADの前駆体であるNMNの投与によりNAD濃度を体内で上昇させることが寿命の延長につながると考えられているそうです。ステムセルはいつでも増殖・分化して組織を作る細胞だと思われていましたが、ステムセル自体も老化して能力が落ちてしまうのではないかという「ステムセルエイジング」という概念ができ、その解明が試みられているとのことです。オルガノイド培養法という、ステムセルを長期的に培養する技術のために用いるステムセルを若いマウスから作った場合と老いたマウスから作った場合とで比較すると、老いたマウスからとったステムセルはなかなか大きくならず、そこには老化が絡んでいると推察されたため、老いたステムセルのNADを実験で増やしてみると推測通り若いステムセルと同等の増殖・分化を認めたそうです。

若いステムセルにおいてエピゲノム状態はほぼ均一に保たれていますが、加齢に伴い自己複製を繰り返すことでエピゲノム変化が蓄積し、最終的にはステムセルの枯渇に伴う組織の機能不全や増殖異常につながると考えられます。NADの増加によりステムセルの老化を抑制することが出来れば、このエピゲノム変化の蓄積による組織の機能不全や増殖異常を抑制することが可能となり、様々な疾患の予防に繋がる可能性があるとのことです。

高齢化が進む今、これらの抗加齢医学研究が実臨床に応用され、予防医学が発展することを期待します。

 

眼科関連の講演としては、光から健康に!というテーマでの講演が興味深かったです。

光環境で特に注目される波長はブルーライト領域であり、サーカディアンリズム障害による不眠、うつ病だけでなく、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症などの慢性疾患とも関している可能性があるとのことでした。世界的に急増する近視進行にバイオレットライトが関与することもわかり、屋外で遊ぶと近視が抑制されると言われる理由が明らかになったとの報告もありました。但し、眼鏡はバイオレットライトを通さないので、指導する際は裸眼での活動を薦めるかバイオレットライトを透過するCLの使用を薦めた方が良いとのことでした。ブルーをカットしバイオレットを透過する眼鏡を開発中とのことなので、近い内に学童期の眼鏡としてお奨めできるものが発売されそうです。

日本弱視斜視学会・日本小児眼科学会2016に参加して(大嶋)

近視と斜視 近県内斜視は学童期の近視を進行させるのか?(長谷部 聡先生)

近見内斜位は近視学童の約30%に見られるが、近見内斜位では近見時に起こる融像性開散が輻湊性調節を介して調節反応を低下させる。増大した網膜後方へのデフォーカス(調節ラグ)は眼軸長の視覚制御機転を刺激して眼軸長の過伸展と近視進行を促す。

外斜位群よりも内斜位群の方が近視進行速度が速い傾向がみられて、これには累進屈折眼鏡の装用が有用で近視抑制効果も外斜位群で半年で0.08Dの抑制に対し内斜位群の方が0.30Dと有意に高い結果となった。累進レンズ装用での治療開始時期が早い程抑止効果が高いそうです。

子供は近用部を使わなくとも近方視が可能なためできるだけ累進帯長は短い方がよく、10、11mmが良い。使用方法の説明もきちんと行って装用してもらうことが大事である。

学校健診でもしばしば近見内斜位見かける。潜伏遠視があるのでは?と言われていたが、あまり遠視の影響という感じではないのにと思っていたが、今回の話の方があてはまるように思いました。

日本と欧米との違いもあるのかもしれません。

 

小児の緑内障診療(木内 良明先生)

i-cereが良く使われるようになってきた。誤差が少なく、i-cereプロは使いにくいが仰臥位でも測定できる。ゴールドマンより高めに出る。

エビデンスはないが角膜混濁のある人は混濁を避けて、LASIKも角膜厚の正常な周辺部で測定したら、本来の値に近い数値が出るかもと話があった。脈派まで測れるニューマトノグラフが一番正確との話も上がったが、DCTの話は出なかった。

 

ERG(近藤 峰生先生)

錐体ジストロフィー OCTにてIS/OSライン不明瞭、ERGも異常、スタルガルト病の初期は視力異常なく、ERG異常なしでOCTで中心網膜厚薄くとOCTにて異常が発見できるというものが多いが、先天停在性夜盲などはOCTはほぼ正常でERGでしかわからないこともある。弱視治療をしていても5~6歳過ぎても視力が出ないときはOCTだけでなくERGが必要。

 

間歇性外斜視の術前後における視能訓練(松本 富美子先生)

間歇性外斜視の外斜位時の生理的複視に抑制があるもの50%~70%。

術前の外斜視時の抑制除去訓練(flashing method)はもちろん必要だが、術後の生理的複視認知訓練、輻湊訓練、融像訓練を行うことでその後の斜位維持率が違ってくる。生理的複視認知訓練が重要である。

近大では術前2Wにわたって3~5回。術後は眼位が安定する1か月後から8Wにわたって週1回ペースで訓練を行っている。

 

イブニングセミナー JFCのオクルパッド

不同視弱視の弱視治療にオクルパッドが有用である。

オルテのタブレットタイプで偏光眼鏡を装用して弱視眼だけに映像が見えるようにして簡単なゲームをすることで訓練する。

片眼遮蔽の場合導入時1日3時間が平均で効果がないと6時間の指示を出すこともあるが、オクルパッドは1日1時間でよい。また実際の使用時間も記録されるため訓練の管理が容易にできる。

子供は従来の弱視訓練と異なり、楽しんで取り組んでくれ、1時間超えてしてしまう子も多い。

継続させる苦労でなく、やめさせるにあたり苦労があるとの報告もあった。

訓練開始6カ月後のドロップアウト率は片眼遮閉は80%(←悪すぎる。アドヒアランスが悪いせいとの指摘もあり)に対しオクルパッドは25%と格段に良い。

弱視眼の1.0到達期間も片眼遮蔽平均18か月に対しオクルパッドは7か月と早い。

オクルパッドを使っての遠見視力検査での詐病の検出や、オルテでの通院訓練との併用例なども紹介されていました。

オクルパットが良いというわけでなく、しっかり集中して見ることができれば3時間も6時間も無駄にすることは必要なくて、1時間より短い時間でも効果があるのかもしれないと思いました。

また、オルテの活用の幅は広く、もっと使いこなせるよう熟知しないとと思いました。

 

モーニングセミナー 斜視・弱視のフォローアップ

屈折異常弱視(特に不同視弱視)は視力が出た後も4人に1人は弱視を再発する。10歳以上は比較的再発しにくくなる。メガネは必ず装用の上、3Mおきのフォローが必要である。中学になったら1Yおきで中3までフォロー。それ以降は自覚的に変化があったらの来院でよい。弱視用のメガネの給付は矯正視力が1.0に達していても、「今中止すると弱視の再発の可能性が高い」とのコメントを指示書に記載により支給が可能となる。

XPTはphoriaが維持できていれば6M毎。

内斜視のptにはアトロピン麻痺下での完全屈折矯正が必須。

先天白内障の30%に続発性緑内障が起こるので定期検査は必要。後発白内障も強く水晶体上皮の増殖が強い場合はopeになる場合もある。

網膜芽細胞腫の再発は10数年後でもあり得るので定期検査が大事である。

白血病の再発も目からくることが多いので眼科的フォローが重要である。

 

調節麻痺薬の使用に関する施設基準及び副作用に関する調査(若山 暁美先生)

116施設での調査。

全施設で調節麻痺薬を使用していた。

アトロピン使用は86.2%、シクロペントラートは96.6%であった。

点眼法はアトロピン1日2回7日間。使用濃度は0.1%のみ。または1%と0.5%の使い分けをしている施設とあった。1歳以上は0.5%、3~5歳以上は1%としている。0.5%を使いたいが希釈しないといけないので仕方なく1%を使っているとの意見もあった。

シクロペントラートは5分間隔で2回点眼の上60分から65分おく施設が多かった。

両方使っている施設では、内斜視の有無で薬剤を決定している。

副作用はアトロピンは使用施設で84.5%、シクロペントレートは55.2%が経験していた。

アトロピンの副作用としては顔面紅潮、発熱が主。シクロペントラートは眠気、熱感が58%、幻覚が28%となった。

調節麻痺薬の使用のスタンダードがはっきり示された発表でした。

内斜視がある場合はアトロピンを使用しないのであれば、サイプレでの深追いをせず、アトロピンでの検査ができる施設への紹介が良いのかと思いました。

 

Sagging Eye Syndrome 診断と治療 (後関 利明先生)

高齢者の複視の訴えの中で、原因のハッキリしない上下斜視や内斜視を滑車神経麻痺や開散麻痺?と診断していたが、その多くがPulleyの異常で起こることがMRI画像などでわかってきた。

外直筋pulleyは加齢により菲薄化し重力の影響で下方に偏位する。外直筋pulleyの下方偏位が左右同程度だと開散麻痺様の内斜視を、左右眼で差があると上下回旋斜視を呈する。

水平直筋pulleyの下方偏位で上転障害が起こる。

外直筋pulleyの下方偏位LR-SRバンドの延長破たんで起こる疾患をSagging Eye Syndromeという。

Sagging Eye Syndromeについては良くわからなかったのですが、高齢者の原因の明確でない微量の上下斜視、開散麻痺様の内斜視は外来で良く遭遇するが、筋力の低下だけでない加齢変化があるということがわかりました。

今回話を聞いた中でまだまだ分からないことがたくさんあると感じたので、不明瞭な点は今後、勉強し直したいと思います。

 

大嶋 有貴子

第16回抗加齢医学会に参加して(松坂)

AMDに対する生活指導としては、黄斑色素の構成要素であり青色光吸収、抗酸化作用をもつルテイン/ゼアキサンチン、ω3脂肪酸の摂取と抗酸化ビタミン、ミネラルの摂取といった食事指導と、メンタルヘルスを維持する、適度な運動をお勧めするということで、現行以上の新しい報告はなかった。しかし、新しい治療法としてHIFをターゲットにした治療の研究が進められているという報告があった。VGFが欠乏すると脈絡膜血管と視細胞の一部が委縮し機能を失うことが分かった一方、上流の制御因子HIFは欠損していても生理的な異常は示さなかった、とのことである。HIFを標的とした治療法が確立すれば、抗VGF療法のような大きな副作用のない治療が提供できる可能性が高くなると考える。今後の研究開発に期待したい。

ドライアイとセロトニンとの関係についての研究も報告された。セロトニンの原料であるトリプトファン欠乏食をマウスに与えたところ、血中セロトニン量が減少し涙液量も減少した。涙腺にはセロトニン受容体があり、セロトニン不足になるとドライアイになるという。セロトニンが不足するとメラトニンも作られず睡眠のクオリティーにまで影響する。良質なたんぱく質を摂取してトリプトファンの欠乏を防ぎ、セロトニン欠乏を防ぐことでドライアイも改善する可能性がある。腸内細菌叢に働きかけるサプリメントの説明を患者様にする際に情報提供したいと思う。

まだ作用機序が確立されてはいないが、水素を使った治療の研究が各科でされているようで、シンポジウムや一般公演などで報告、ディスカッションされていた。眼科においてもドライアイモデルマウスにより水素水の角膜疾患への有効性が証明されているそうで、今後色々な疾患に対する有効性が期待される。

緑内障、加齢黄斑変性症、ドライアイなど、眼疾患の90%以上は加齢により罹患率が上昇する加齢関連疾患であるため、個々の疾患ひとつひとつをターゲットにするのではなく、加齢そのものにチャレンジすることで眼疾患を治療するという戦略が必要ではないか。ということで「抗加齢医学」という新しい戦略が眼科でも始まりつつある、と学会理事長の坪田一男先生が提言されていた。疾患に対する主な治療である薬物療法は効果もあれば副作用もある。薬物を使わず「抗加齢医学」により罹患を抑える、進行を抑えることができれば、それが理想的であると考える。

効果的な生活指導が行えるよう、今後益々「抗加齢医学」の知識を深めていきたい。