第17回抗加齢医学会に参加して 松坂

今回の抗加齢医学会のテーマは「Anti-aging Breakthroughs」、抗加齢の基礎研究のエビデンスと人疫学研究の成果を実臨床に結び付け、老化を制御できないかという願いを込めたテーマとのことでした。実際には実臨床に結びついた報告はまだこれからという印象でしたが、老化のプロセスについてはかなり解明されてきているという印象を受けました。

 

老化のプロセスにNADが大きく関与しており、サーチュインがNAD依存性であることや、NADが加齢とともに体内で減少することから、NADの前駆体であるNMNの投与によりNAD濃度を体内で上昇させることが寿命の延長につながると考えられているそうです。ステムセルはいつでも増殖・分化して組織を作る細胞だと思われていましたが、ステムセル自体も老化して能力が落ちてしまうのではないかという「ステムセルエイジング」という概念ができ、その解明が試みられているとのことです。オルガノイド培養法という、ステムセルを長期的に培養する技術のために用いるステムセルを若いマウスから作った場合と老いたマウスから作った場合とで比較すると、老いたマウスからとったステムセルはなかなか大きくならず、そこには老化が絡んでいると推察されたため、老いたステムセルのNADを実験で増やしてみると推測通り若いステムセルと同等の増殖・分化を認めたそうです。

若いステムセルにおいてエピゲノム状態はほぼ均一に保たれていますが、加齢に伴い自己複製を繰り返すことでエピゲノム変化が蓄積し、最終的にはステムセルの枯渇に伴う組織の機能不全や増殖異常につながると考えられます。NADの増加によりステムセルの老化を抑制することが出来れば、このエピゲノム変化の蓄積による組織の機能不全や増殖異常を抑制することが可能となり、様々な疾患の予防に繋がる可能性があるとのことです。

高齢化が進む今、これらの抗加齢医学研究が実臨床に応用され、予防医学が発展することを期待します。

 

眼科関連の講演としては、光から健康に!というテーマでの講演が興味深かったです。

光環境で特に注目される波長はブルーライト領域であり、サーカディアンリズム障害による不眠、うつ病だけでなく、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症などの慢性疾患とも関している可能性があるとのことでした。世界的に急増する近視進行にバイオレットライトが関与することもわかり、屋外で遊ぶと近視が抑制されると言われる理由が明らかになったとの報告もありました。但し、眼鏡はバイオレットライトを通さないので、指導する際は裸眼での活動を薦めるかバイオレットライトを透過するCLの使用を薦めた方が良いとのことでした。ブルーをカットしバイオレットを透過する眼鏡を開発中とのことなので、近い内に学童期の眼鏡としてお奨めできるものが発売されそうです。