第16回抗加齢医学会に参加して(松坂)

AMDに対する生活指導としては、黄斑色素の構成要素であり青色光吸収、抗酸化作用をもつルテイン/ゼアキサンチン、ω3脂肪酸の摂取と抗酸化ビタミン、ミネラルの摂取といった食事指導と、メンタルヘルスを維持する、適度な運動をお勧めするということで、現行以上の新しい報告はなかった。しかし、新しい治療法としてHIFをターゲットにした治療の研究が進められているという報告があった。VGFが欠乏すると脈絡膜血管と視細胞の一部が委縮し機能を失うことが分かった一方、上流の制御因子HIFは欠損していても生理的な異常は示さなかった、とのことである。HIFを標的とした治療法が確立すれば、抗VGF療法のような大きな副作用のない治療が提供できる可能性が高くなると考える。今後の研究開発に期待したい。

ドライアイとセロトニンとの関係についての研究も報告された。セロトニンの原料であるトリプトファン欠乏食をマウスに与えたところ、血中セロトニン量が減少し涙液量も減少した。涙腺にはセロトニン受容体があり、セロトニン不足になるとドライアイになるという。セロトニンが不足するとメラトニンも作られず睡眠のクオリティーにまで影響する。良質なたんぱく質を摂取してトリプトファンの欠乏を防ぎ、セロトニン欠乏を防ぐことでドライアイも改善する可能性がある。腸内細菌叢に働きかけるサプリメントの説明を患者様にする際に情報提供したいと思う。

まだ作用機序が確立されてはいないが、水素を使った治療の研究が各科でされているようで、シンポジウムや一般公演などで報告、ディスカッションされていた。眼科においてもドライアイモデルマウスにより水素水の角膜疾患への有効性が証明されているそうで、今後色々な疾患に対する有効性が期待される。

緑内障、加齢黄斑変性症、ドライアイなど、眼疾患の90%以上は加齢により罹患率が上昇する加齢関連疾患であるため、個々の疾患ひとつひとつをターゲットにするのではなく、加齢そのものにチャレンジすることで眼疾患を治療するという戦略が必要ではないか。ということで「抗加齢医学」という新しい戦略が眼科でも始まりつつある、と学会理事長の坪田一男先生が提言されていた。疾患に対する主な治療である薬物療法は効果もあれば副作用もある。薬物を使わず「抗加齢医学」により罹患を抑える、進行を抑えることができれば、それが理想的であると考える。

効果的な生活指導が行えるよう、今後益々「抗加齢医学」の知識を深めていきたい。